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女性待遇 特に研究者の場合

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先日、後輩女史とちょっとした世間話の中で、女性の社会進出を拒むものは何か?という話題になりました。
その女史が言うには「なんで女性だけライフイベントで重荷を背負わないといけないのか!」ということです。(ちなみに、彼女が一番嫌がっているのは出産に伴う痛みだそうで、男女とも子供が欲しくて発生するイベントで女性だけ痛いのは納得いかないそうです)

男女均等が叫ばれて久しい社会情勢ですが、はてそれほどまでに不平等が蔓延っているのでしょうか。女性関係で浮いた話の無い私には、それほど興味のある話題ではないなと思いつつも少し考えてみたことを記しておこうと思います。


男女平等とは?

一口に男女平等と言っても何のことかわかりません。根本的に男性と女性では生物的特性が違うのですから、全く同じことを同じようにやれというのは不可能です。これは特にどちらの性が優れているとかいう問題ではないはずです。一般的に男性のほうが筋肉が発達していますし(あるいは発達しやすい)、女性のほうが対人コミュニケーションが優れていると言われています。職業に置き換えるなら、肉体労働系だと男性のほうが仕事量が多いでしょうし、乳幼児や高齢者など丁寧なコミュニケーションが必要な介護・教育職には女性のほうが適性があるでしょう。

誤解されがちですが、上記はあくまで一般的傾向=統計的に起こりやすい事象であって、男性平均より筋力の優れる女性もいれば、平均的な女性よりも対人コミュニケーションに優れる男性もいるでしょう。
私は男女平等とは、全ての職種について男女比をその人口比に一致させることではなく、能力によってのみ人を区別をすることだと思っています。なので、当然のように肉体労働系だと男性の従事者のほうが多くなるでしょうし、看護師、介護士などは女性のほうが多くなることもあるでしょう。

最も忌避されるべき考え方は、「男のくせに○○○か」とか「女が○○○をするなんて」という発想です。その「○○○」をするだけの能力があるなら、男性だろうが女性だろうが関係ないはずです。さすがに、女性のボディチェックを男性が行うのは嫌がる人もいるかもしれないので、そのあたりは配慮があってもいいのではないでしょうか。
(でも産婦人科医が男性のケースって多いですよね。私としては女性が受容してるのか、嫌だけど仕方なく受診しているのか気になるところです)


研究者における男女平等


研究者も「リケジョ」に代表されるように男性が就く仕事というイメージが強いように感じます。では、この職業適性に対して有意な性差はあるのでしょうか?私はあまり、感じていません。たしかに、男性研究者のほうが(一般に比べると非力ですが)力があるので、ラボ内での荷物運搬とか機材メンテには向いている気がしなくもないです。しかし、本質的な仕事は自然現象にから何らかの法則を見つけ出したり、役に立つシステムや物を開発することです。肉体的にどうこうといったことは些事にすぎません。研究者人口にここまでの差が付いているのは、性差による能力が違うのではなく、単に理系進学者に男性が多いというだけだと思います。
では、ここまで進学率に差が出てしまうのでしょうか。進学の各段階で考えていきます。

進学


まず、最初に文理が分かれるのは高校での進学クラス編成ではないでしょうか。文系進学クラスか理系進学クラスか。
高校生の段階から人生設計を深く考えてクラス選択をする人はそれほどいないと思いますので、イメージや経験先行の選択になるでしょう。「数学が嫌いだから文系」とか「英語ができないから理系」とかいった程度の理由がほとんどだと思います。
得意科目や好きな科目に男女差がでるのは間違いなく性差だと思います。特に誰からも強制されてないですし、男女で脳の働きがすこし異なることはよく知られている事実です。
この段階では女性率は30ー60%はあるように思います。

次に大学院(修士課程)進学を考えます。
旧帝大を始めとして高偏差値の大学では、理系学生のほとんどが進学します。地方大や私立大でも結構な割合で進学しているのではないでしょうか。修士課程に進学すると、社会に出る年齢が22歳から24歳へと遅れますが、自分のキャリアや生涯年収、就職先などを勘案して進学する人が多いのだと思います。
この段階で女性率は少し下がって20ー40%程度でしょうか。

最後に大学院(博士課程)進学です。
最も大きな問題は卒業時年齢が留年・浪人なしで27歳になるということ。女性にとっては身体的な出産適齢期を逃してしまうおそれ(結婚等へのあせり)が出てくる頃です。さらに、3年で学位が取得できるとも限らないことも年齢的な圧迫を強めます。そのせいか、進学率は極端におちて、この段階での女性率は10%程度に感じます。

どこかに具体的なデータがあればいいのですが、上記数値は私の個人的な感覚です。リンクを教えてくれる方がおられると助かります。


企業研究者のほとんどは修士・博士修了者ですし、旧国研や大学教員は博士号を持っていないとエントリーすらできません。大学教員や研究者の女性比率を増やそうとおもうなら、女性優遇の採用活動をするのではなく、女子学生の大学院進学率を向上させるべきでしょう。
もちろん、男性しか採用しないといったスタンスは忌避し、改めるべきです。しかし、男性の候補者を排除して能力的に劣っている女性の候補者を採用することは逆の男女差別ですし、あってはならないことだと思います。
さて、ともかく研究者人口に占める女性の割合が低いとこを記しました。どっかの偉い人が大学教員の半数を女性に、とか言ってるらしいですが、母数から言って無理です。理不尽すぎます。現実をみてください。


進学忌避の要因


では、なぜ女性が進学を忌避するのでしょうか。先日の後輩女史との話を元に考察していきます。

まず、先ほども書きましたが、進学により年齢を重ねることで出産適齢期を過ぎてしまうことが挙げられます。現代の医療技術では比較的安全に高齢出産が可能になってきてはいますが、やはり20代のうちに出産するほうが母子ともにリスクが低くすみます。また、子供が成人し独り立ちする頃の親世代の年齢も気になりますし、ただでさえ体力・気力が必要な育児を高齢になってからこなすのは大変です。男性は、出産・育児に対して女性ほど責任がない(と思っている人が多い)ので年齢が重なることに抵抗がすくないのかも知れません。出産は女性しかできませんし、育児も女性ができて男性にできないことはありますが、男性にできて女性ができないことはありませんので・・・・。


また、出産後も仕事を続けるとしてもやはり問題があります。
研究なんてものは不断の活動が必要なわけで、すっぽり2年抜けたあとにキャッチアップするのは大変なわけです。ラボの環境変化やら、市場・学会の動向変化やら、最新のトピックやら論文やら、とにかく速い流れのなかで自分の研究が最も際立つ切り口や見せ方、問題解決のための新しい手法を常に取り込み続けるのがいわば研究活動だからです。出産後に元通りに研究職として復帰しようとするなら、制度的サポートもさることながら、休暇中の本人の過ごし方や復帰後の努力などが必須になります。

特にアカデミックだと問題が顕著です。
教員の下には学生=未熟な研究者がいるわけで、彼らの研究をサポートし、研究能力を鍛えるのが教員の仕事です。しかも企業研究者と異なり、同一の業務を兼任している人が1人いるかいないかです。こうなると、残された人の負担が大きくなりすぎますので、おいそれとは長期休暇を取れなくなります。旧来からの大講座を維持しているところだと、一つのラボに数人のスタッフがいるので、比較的休みやすいのかもしれませんが。一度休むと、休暇によって業績に空欄ができる→研究費が取れなくなる→研究ができなくなる→業績がだせないのスパイラルが始まることも問題です。


これからの課題


誤解を恐れずに言ってしまうと、バリバリに働いてキャリアを積み上げたい女性にとって育児・出産が足かせになってるのが現状です。このキャッチアップやサポート体制を確立しないことにはいくら女性登用・女性採用を積極的にやったところで無意味です。そもそも、「女性積極採用」なんてのが男性上位な考え方で、キチンと性差に沿ったサポートを実施していればそれだけで適度な数の女性採用ができるはずです。男女比の不適切な現状をなんとかするのではなく、性差によってデメリットを生じさせない制度・体制作りが急務なのではないでしょうか。

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