高専の学位
先日、高専のキャリアに関するセミナー(?)が開催されたそうです*1。
高専卒の私にも興味を引く話題だったので、しばらくの間twitterにしがみついていたのですが、ちょっと話になったのがこのツイート。
高専が学士をつけてほしいのは極めてそう思う。 というかせめて短期大学士でいいからつけてほしい。準学士と短期大学士の海外での扱いの違いが理不尽。 #高専キャリア
— うみさま (@umisama) August 23, 2015
@umisama はtwitterプロフィールからもわかる通り、高専卒の情報技術者なわけです*2。
彼自身、よく出来る人物*3だし、学位の問題で不遇を感じているのもよくわかる話で、学位がすなわちその人の能力を示す尺度にならない事には意義がないと思う。
そもそも学位ってなんぞ
大半のビジネスパーソンは大学を卒業しているはずですが、学位について理解のある方はそれほど居られないように感じます。wikipediaによると学位は以下のように定義されています。
学位(がくい、英: degree)とは、大学など高等教育機関や国家の学術評価機関等において、一定の教育課程の修了者又はそれと同等の者に対して学術上の能力または研究業績に基づき授与される栄誉称号を言う。
学位の種類と授与できる機関は学校教育法及び独立行政法人大学評価・学位授与機構法によって決められており、(機関):(授与学位)で纏めると以下のようになる。
短期大学を除く大学:修士、博士、学士又は専門職学位(専門職修士、法務博士又は教職修士)
短期大学:短期大学士
学位授与機構:修士、博士又は学士
おいおい、高専で授与される「準学士」を書き忘れてるじゃないかと思われますが、学位とされるのはこれだけです。「準学士」は学位ではないのです*4。学校教育法には次のように書かれています。
これは「称号」と呼ばれるもので、誰かに認定され授与されるものではありません。国際的にも「準学士」なる称号は存在せず、国内だけで使えるちゅうぶらりんな称号です。
同じ修了年数の教育を受けた高専卒と短大卒でここまで待遇に差がつくのは何故なのか。@umisama氏も大卒(学士)と高専卒(準学士)との差については納得する部分もあるようで、次のように述べられていますが、短大卒(短期大学士)と高専卒(準学士)の差については、制度上の違いは理解できても、現実として納得することは難しいとも述べています。
@h_purification そこは実感としてもあるのでそりゃそうだと思うんだけれど、とはいえ、短期大学士と準学士の違いは理不尽だ。
— うみさま (@umisama) August 23, 2015
高専卒人材と短大卒人材
確かに、短大卒と高専卒の人材を比較したときに、どちらのほうが需要があるかと言われるとおそらく、高専卒人材だと言えるでしょう。残念ながら、短大卒に絞った求人倍率調査を見つけることができませんでしたが、長野高専のHPに次のような記述がありました。
県内の大卒に比べて求人倍率が10倍以上高いというもので、いかに高専卒人材の需要があるかがわかるとおもう。
大卒者と短大卒者の求人倍率の違いに5倍以上の開きがあるとは思えないので、有意に高専卒人材の方が求められていると言っていいだろう。にも関わらず、上述のように学位面で高専卒を下に置くようになっているのだろうか。これには法制上の学校設置目的に由来する問題である。
学校を設置する目的
学校の設置目的はおなじみの学校教育法で定義されている。該当条文を以下に抜粋する。
第八十三条 大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする。
○2 大学は、その目的を実現するための教育研究を行い、その成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。第百八条 大学は、第八十三条第一項に規定する目的に代えて、深く専門の学芸を教授研究し、職業又は実際生活に必要な能力を育成することを主な目的とすることができる。
○2 前項に規定する目的をその目的とする大学は、第八十七条第一項の規定にかかわらず、その修業年限を二年又は三年とする。
○3 前項の大学は、短期大学と称する。第百十五条 高等専門学校は、深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成することを目的とする。
○2 高等専門学校は、その目的を実現するための教育を行い、その成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。第百十九条 高等専門学校には、専攻科を置くことができる。
○2 高等専門学校の専攻科は、高等専門学校を卒業した者又は文部科学大臣の定めるところにより、これと同等以上の学力があると認められた者に対して、精深な程度において、特別の事項を教授し、その研究を指導することを目的とし、その修業年限は、一年以上とする。
条文を読むと、それぞれの目的は次のように書いてある。
大学:学芸・学術の教授と研究
短大:学芸の教授と研究及び職業・生活能力の育成
高専:学芸の教授と職業能力の育成
高専専攻科:研究指導
短大を含む大学と高専との最たる違いは、研究活動を設置目的に含むか否かです。学位は学術上の能力と研究業績に対して与えられるので、やはり高専には学位を出す資格がない。高専は研究が主目的ではないのだから*5。「高専でも卒業研究したぞ!」との主張もありますが、これは法制上の問題であり、現実問題として高専卒のほうが短大卒より研究能力があるから、といった問題ではないのです。このあたりの捻れが@umisama氏の言う「理屈ではわかっても理不尽」という言葉に収束するのだろう。
高専専攻科については、高専内の教授会に学位授与権限が降りてきたなんて話を聞いたので、以前とは違って、すこしは現実に即した形になってきているのだと思う*6。
こんな不満が出る原因
なんで高専OBからこんな学位に関する不平不満がでるのかというと、持っている学位がどうのこうのという問題が目の前に現れるのが、社会に出て働いて数年経った頃以後だということ。
そして、入学時・在学時・卒業時には学位なんて全く意識にないのです。大半の学生にとっては、卒業証書もらえればそれで終わりですからね*7。
学校側がこういった事実を受け止めているのかは不明ですが、15歳の子供が高専に入る際に学位なんて気にするわけがないのだから、保護者説明会などで周知する必要があるのではないでしょうか。または、法制度を変えて高専卒でも試験等をすれば短期大学士の学位を得られるようにするとかあったほうがいいのではないでしょうか。
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