研究室で病む人たち
同期だった学生がいつの間にか後輩になっていた、なんてよくあることですよね。
私の同期も何人かそういう人が居ます。
学業不振や家庭事情、留学などの都合で留年するのはべつに構わないと思います。
本稿で取り上げたいのは精神疾患です。うつ病やパニック障害で登校したくてもできないケースです。
かくいう私もメンタルが強い方ではなく、時折、うつの初期症状が現れることもあります。うつチェッカーなんかをやってみると大抵「重度のうつの疑いあり」なんて結果になります。
今回は、うつのために留年を余儀なくされた同期と話をしたので、その所見に基づいて、研究室生活で病んでいく様子や、病まないための考え方・行動、病んでしまった人への対応などを記したいと思います。
*全て私見です。ただし、うつになった友人(同じラボを含む)談と自分の経験に基づいています。
「病む」ことと「罹患」すること
最近は精神疾患に対する世間の理解もたいぶ進んで来ていて、「うつは甘え」「精神病は気の持ちよう」なんて乱暴なことを言う人はめっきり減りました。一方で、「うつ」という言葉が軽くなりすぎている兆しがあります。
若い世代、特に30代前半から20代で、気分が落ち込んだりやる気がでなかったり何か思い通りにならないことがあると、すぐに「病む」という言葉が出てくるように感じます。精神疾患が認知されてきたことは好ましいことですが、このように日常的にある気分の上がり下がりに対して「病む」という語が当てられた時、本当にうつ病等を罹患している状態との区別が曖昧になっては来ないでしょうか。
確かに、「病む」という状態が初期のうつに近い状態であることは否定しきれません。しかし、大抵の場合「病む」は一過性のものであり、翌日あるいは数時間後にはその陰鬱な気分は解消されています。一般的に、精神疾患だと診断されるのは、症状が数ヶ月の間継続している場合です。「嫌なことがあって、今日はもう何もしたくない」という感情が朝から晩まで数ヶ月持続すると考えてください。「うつ病に罹患している状態」と「病んでいる」状態にはこれだけの差があることをまずは認識しないといけません。
うつ病とは
精神病にもいろいろあって、しかも診断基準が難しかったり数年で病名が変わったりするので、専門医でもなければ完璧にフォロー仕切れません。そこで、本稿では特にうつ病に限った話をすることにします。(新型うつを除きます)
うつって結局なんなんだよ、知らねぇよ。って人はあまりいないとは思いますが、一応定義っぽいものを書いておきます。厚生労働省が作っているHPの解説がおそらく一番簡潔でわかりやすいのでリンクしておきます。
www.mhlw.go.jp
単純に言ってしまえば、気分がよくない・体の調子もよくない・何をやるにしても普段以上にしんどいってな感じの症状です。怠けてるだけじゃないの?って思うかも知れませんが、本当に病的なほど何もできなくなります。
更に、うつ病になりやすい人は責任感や公正世界信念が強く、「やらなければ」「〜であるべきだ」といった考えや言動をする傾向にあります。なので、「うつ病で何もやる気にならない・やらない自分」というものに余計ストレスを感じ悪化しやすいのです。
*公正世界信念:「正しいものは正しく評価され、悪いものは悪い評価を受ける。全ての善悪に報いがある」という考え方
うつになっていく過程
私の観測できる範囲だと、研究室生活で学生がうつっぽくなって来なくなるケースだと大体同じような過程を経ています。その様子を外から見ているとこんな感じです。
1. 研究がうまく行かない。成果がでない。または研究室内に嫌いな人物(教員・学生問わず)がいる。
2. 所作が雑になってくる。研究室のルールを忘れるようになる。(遅刻が増える、共有スペースを身勝手に使うようになる。ただし悪意があることは稀)
3. 集団の中で孤立していく。会話が減る。
4. 研究室にいる時間が減る。息抜き・休憩が増える。
5. 学校にすら来なくなる。消息不明。
6. うつで休学しているという噂が流れる。
この通りに見ていると、ただただ素行不良の学生のように見えますが、実態は異なります。うつになってしまった本人的にはきっとこんな感じ。
1. 研究がうまくいかない。必死に試行錯誤する。
1.1 教員・先輩に助けを求めるが適切な回答は得られない。研究に対して悩みを持ち始める。
1.2 周りの他の学生が結果を出し始めるのを見て焦る。必死に研究に取り組む。
1.3 それでも成果は出ない。教員からは時々叱責を受ける。周りの評価が下がるの気になる。
2. 研究に取り組む気持ちが萎えてくる。取りかかるの多大な努力が必要になってくる。
2.1 現在やっていることしか考えられなくなる。他者に気を使ったり、研究の段取りを組むのができなくなる。
2.2 やらかすことが増える。他者に迷惑をかけているとわかりつつも改善できない。
2.3 もはや何かをすることが億劫になる。
3. 集団から孤立する。誰かと話をするのが怖い、あるいは億劫。
4. 逃げるために人がいない時間に研究をする。しかし思ったようにはできない。
5. 起き上がる気力もない。何もしたくない、できない。
6. 教員・親などと面談をする。通院等が始まる。
他人が「こいつうつ病だ、気をかけてやらないと」と思いだすのは大抵4と5の間くらいからで、本人的にはとっくに手遅れになっている時期です。多くの人の経験では、なんだかんだで研究を進めるうちに成果が出だしたり、的確なアドバイスをくれる人の存在によってこのルートから脱却するのですが、そうで無い場合に問題が顕在化します。そして、顕在化した状態では重度のうつ病になっているという形です。
うつにならないために
うつを避けるためにはどうすればいいでしょう。上のどこかの段階でルートから抜け出せればいいのですが、それほど簡単なものではありません。理解ある助言者がいて、研究をうまく進められるならうつになることも無いのでしょうが、他者や環境に依存した手法では、根本的解決にはなり得ません。
カウンセリングなどでもよく言われることですが、考え方を変えるのがもっとも確実な方策です。ではどうすればいいのでしょう。
私が最も必要だと思うのは、ものごとの多面性を許容することです。
全ての人、物、出来事には必ず良い面と悪い面があります。あなたが何かをした時には、必ずそれを肯定する人と否定する人がいます。わざわざ、自分を否定してくるものばかりと向き合ってばかりいると、自分を消耗していくことになります。
それに、なにもあなたの全てが研究生活だというわけではありません。たしかに、研究は生活の多くを占めているかもしれませんが、それをしなければ死ぬということもありません。研究以外の時間に生きがいや楽しみを見つけるとよいでしょう。「何のために研究をするのか?」という問いに対する回答として、「賃金を得るため」「学位をとって就職するため」といった唯物的な回答でも全く問題はありません。
最後に、どうしても教員らの圧力・ハラスメントに耐えられない時は「でもいざ命の掛かった対立になっても、このジジイと殴り合いをして最後に立ってるのは若い自分のほうだ」と考えましょう。実際に暴力沙汰になったら問題ですが、気の持ちようとして教員に対する身体的優位を自覚するだけで、「自分は何もかもダメな人間だ」という意識から逃れるきっかけになるはずです。
ラボメンバーがうつになった時に
本当にうつになってしまうと、何もできません。それは彼らが怠惰であるとか、不摂生であるとかに関係なくです。決して責めないでください。むしろ、彼らがうつになってしまった原因の半分以上は周囲の人間・環境にあります。他人のうつに対して責任を感じる必要はありませんが、自分に全く問題が無かったか考えてください。必ずすこしは悪い言動があります。
そして、うつは誰しもがなる可能性のある病気です。今はたまたま、隣の席の彼/彼女が苦しんでいますが、何かが少し違えばそれは自分だったのかも知れません。これから先だっていつ何時、自分が辛い立場に置かれ、うつになってしまうかわかりません。「自由と独立と己れとに満ちた現代に生まれた我々は、その犠牲としてみんなこの淋しさを味わわなければならない」のです。

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