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特許法35条の改正法案(189回通常国会における改正)

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先日、第 189 回通常国会に特許法の一部を改正する法案が提出され、可決されました。
法案の詳細な内容については、
「特許法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました(METI/経済産業省)
からのリンクを参照ください。

本改正で最も大きな変化は特許法35条(職務発明)についての規定です。他には、手続きの救済規定・特許出願日の認定などがありますが、昨年度の改正と同様の趣旨であること、出願人又は発明者にとって不利益となる可能性が低いことを踏まえると、重要ではない改正です。(法的完備性などを考えると意味のある改正ではあります。)
私は、今回の改正は良くないと思っています。と、いうのも改正内容が発明者にとって不利であるためで、政府が提唱する「グローバル競争力」を獲得を目指すには逆効果に思えるからです。本改正で、企業としては良いことが多いのかもしれませんが、現場の技術者を冷遇するようでは「技術立国」なんて何かのギャグにしか聞こえません。以下、現行の「職務発明」の取り扱いと改正後の取り扱いについて記します。


職務発明とは

特許法35条は、「仕事としてした発明の権利をどう扱うか」を定めたものです。現行法では職務発明を以下の様に定義しています。

使用者等(使用者、法人、国又は地方公共団体)の従業者等(従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員)が行った発明の うち、その性質上当該使用者等の業務範囲に属する発明であり、かつ、その発明をするに 至つた行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明を意味す る(特許法35条第1項)。

職務発明については、自然人が行った発明とは異なる規定がいくつか設けられている。それらは使用者等と従業者等の権利関係を整理するためのものである。



問題の改正点

新設三十五条
3 従業者等がした職務発明については、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から当該使用者等に帰属する。

新設3項が最も問題となっている条項である。特許法上、特許を受ける権利は発明者に帰属することが大原則となっている。これは、発明者の権利を保護するとともに、発明を推奨し産業の発展を促すためである。現行法では、職務発明にあたる特許であっても特許を受ける権利は発明者に発生する。その後に個別の契約等で特許を受ける権利の譲渡・移転・承継を行うことで、財産権として処分の自由を確保してきた。本改正では、対価請求権を認めてはいるが、特許を受ける権利の帰属の例外としてこの条項を新設したため、私には発明者保護の観点から適切な改正とは思えない。
また、平成16年に現行法に改正されてから35条を争点として訴えられた判例がないため、司法評価が定まってないことも改正が時期尚早である一因となっている。
https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/kenkyukai/pdf/syokumu_hatsumei/honpen.pdf



新4項及び5項では、職務発明に対する見返りもについて「相当の対価」という語が「相当の利益」という語に置き換えられている。「発明の対価」から「発明により得られた利益享受」になっているのは、特許権がはじめから使用者に帰属しているため、発明者は「対価」として金銭等を授受できないからと見ればよいのだろうか。そこはかとなく、技術者をバカにしているように感じてしまう。

新35条4項
従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利を取得させ、使用者等に特許権を承継させ、若しくは使用者等のため専用実施権を設定したとき、又は契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等のため仮専用実施権を設定した場合において、第三十四条の二第二項の規定により専用実施権が設定されたものとみなされたときは、相当の金銭その他の経済上の利益(次項及び第七項において「相当の利益」という。)を受ける権利を有する。

現行35条3項
従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、若しくは使用者等のため専用実施権を設定したとき、又は契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等のため仮専用実施権を設定した場合において、第三十四条の二第二項の規定により専用実施権が設定されたものとみなされたときは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。

新35条5項
契約、勤務規則その他の定めにおいて相当の利益について定める場合には、相当の利益の内容を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、 その定めたところにより相当の利益を与えることが不合理であると認められるものであつてはならない。

現行35条4項
契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対価について定める場合には、対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められるものであつてはならない。


極めつけは、新設された第6項である。

新35条6項
経済産業大臣は、発明を奨励するため、産業構造審議会の意見を聴いて、前項の規定により考慮すべき状況等に関する事項について指針を定め、これを公表するものとする。

つまり、「相当の利益」の決定は、不合理でなければ当事者間の話し合いで決めればいいが、その「合理」のルールを決めるのは政治家であるということ。こんな改正案を通してしまうくらいに使用者側に偏っている政治家に、「相当の利益」を決める基準を任せていいだろうか。

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