広告

TPP大筋合意:知財章の中身(1)

広告

先日、TPPの内容について各国で大筋合意が取れたとの報道がありました。多くの人がそれぞれの立場から反対・賛成・疑問の声をあげていることとは思いますが、遅ればせながら、知的財産関係の合意内容について紹介しようと思います。
今週のノーベル賞発表で沸いたように、日本は技術立国を自称しています。資源の乏しいこの国が生きていくのは、科学技術の寄与するところが大きいのは間違いありません。そのためにも、知的財産保護*1は重要であるので少しでも関心を持っていただければ幸いです。

さて、合意の内容だが、これは内閣官房TPP政府対策本部から既に発表がされています。
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2015/10/151005_tpp_gaiyou.pdf

中身について色々な意見がありますが、この条約で知財の何が変わるのかを見ていきたいと思います。
18章 知的財産 の前文として以下の文があります。

TPP協定で対象となる知的財産は、商標、地理的表示、特許、意匠、著作権、開示されていない情報等である。知的財産章は、これらの知的財産につき、WTO協定の一部である「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPS協定)を上回る水準の保護と,知的財産権の行使(民事上及び刑事上の権利行使手続並びに国境措置等)について規定し、もって、知的財産権の保護と利用の推進を図る内容となっている。

つまり、TPPではTRIPS協定を元にした保護体制を作るらしい。TRIPS協定は1995年に発効した国際協定で、もちろん日本も加盟しています。通常の国際協定よろしく、各国に対して直接の拘束力はなく協定に則った法整備を約束する内容になっています。日本でも協定の規定に適合するような法整備がされ、運用されてきました。内容については、特許庁HPなどを参照していただきたい。*2

医薬品の知的財産保護を強化する制度の導入

1.特許期間延長制度
現在、日本の特許法では医薬品特許の審査中に他の法律の規定により特許を実施することができない期間があった場合、5年以下の期間で延長が認められる場合があります。*3ただし、これは結構厳しい。詳細は省くが、特許とされた医薬品の効能のうち、実際に実施できなかった部分についてのみしか認められないためです。例えば、ある有効成分の医薬品について特許権が認められた場合で、大腸がんへの効能で薬事法申請に時間がかかったが、胃がんへの効能はすぐに認められた様な場合、大腸がん治療薬としての特許は延長されるが、胃がん治療薬としての特許は延長されないといった具合になります。他国の特許法を調べ尽くしたわけではないが、私はもうすこし緩い規定に置き換わるのではないかと考えている。

2.新薬のデータ保護期間に係るルールの構築
薬事法申請と審査にかかる新薬のデータは、特許法とは無関係に保護されますが、保護期間が日本では8年、アメリカでは5年と国によって違います。おそらく、特許法ではなく、薬事法の改正でルールが構築されるものと思われます。EUでの保護期間が10年なので、日本に合わせて8年になるのではないでしょうか。

3.特許リンケージ制度
特許リンケージとは、後発医薬品薬事法で承認されるときに、まだ有効な特許権を考慮するかどうかと言う問題になります。2.で述べた通り、新薬に関するデータは特許権の付与期間よりも先に公開されるので、特許権が存続している医薬品についても後発医薬品薬事法申請が可能になります。このときに特許権の存在を薬事法審査の考慮に入れるか入れないかが問題になります。日本やEUでは限定的に特許権の存在を考慮していますが、アメリカではHatch Waxman法に基づいて考慮しないものとしています。
私は、後発医薬品は新薬開発に対する投資の価値を低下させてしまうものだと考えているので、できれば考慮に入れる形で制度化して欲しいと思います。


思いの外長くなってしまったので、他の項目については後日別の記事としてとりあげようと思います。

*1:特に国外に対するもの

*2:来年度の弁理士試験から条約が必須科目になるので、今後書籍等も充実してくることと思う

*3:特許法67条の2

広告